第6段(番外編)
僕は焦っていた。
心地よい眠りと美味しい食事に時間を忘れてしまっていた。
恐れていたのは、出発が遅すぎて彼女に会えなくなってしまうこと。
でも、早過ぎても会うことができない。
時間を、タイミングを読んでいたが、ここは闇の世界。光も風もない。時計もない。
秋の気配がしたように思った。夏が終わってしまう。僕は、慌てて出発した。
彼女を求めて。
案の定、僕は遅れてしまったみたいである。
あちこちを飛び回って彼女の所在を訪ねたが見つけることができなかった。
わずかにのこった仲間に聞いてみたが、彼女を知るものはいなかった。
もう会えないのだろうか?
幾晩も眠らずに飛び回り、彼女の名前を呼んだ。
そのとき、一人の女性を見つけた。
彼女に違いない。
ほっそりとした体型。
愛らしい仕草。
僕は恐る恐る彼女に近づいた。
驚かせてはいけない。
ゆっくりと、ゆっくりと。
こんにちは。覚えているかい。
彼女は逃げずにじっとしている。
僕は恐る恐る彼女の肩に手を置いた。
ずーーっと探していたんだよ。
彼女にキスをしようとしたそのとき、
「私はあなたの彼女じゃないわ。」
「えっ、僕のことを忘れたのかい?」
「よく見て、私はツクツクボウシ、あなたはアブラゼミでしょう。」
もう秋なのよ。